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東京地方裁判所 平成6年(ワ)25687号 判決

原告

縄田信光

被告

宮庄隆行

主文

一  被告は、原告に対し、一五万四六六九円及びこれに対する平成六年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、五五万円及びこれに対する平成六年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  事故の発生

(一) 日時 平成六年八月一二日午後九時二〇分ころ

(二) 場所 埼玉県大宮市大和田町一丁目一七六六番地先路上

(三) 加害車 被告の運転する普通乗用車

(四) 被害車 原告が所有し、運転していた普通乗用車

(五) 事故態様 加害車が前記路上で駐車中の被害車に正面衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故の原因

本件事故は、被告の安全運転義務違反によるものである。

3  本件事故の結果

被害車は本件事故によつて修理費一三四万六六九四円を要する損傷を被つたが、右修理費については、被告が支払つた。

二  争点

本件の争点は、被害車に評価損が発生しているか否か、それが認められる場合における評価損金額である。

1  原告の主張

中古車市場では、事故歴があるというだけで下取価格が低下する実情がある以上、被害車についても、前記修理費の四割相当の五〇万円の評価損が生じたと解すべきである(本件では、評価損五〇万円、弁護士費用五万円の計五五万円を請求する。)。

2  被告の主張

評価損とは、現在の技術において修理を尽くしてもなお完全な修理が不可能であるため原状回復ができず、それゆえ経済的損失が発生している場合に認められるべきものであるところ、被害車は適切な修理を受けて原状回復が図られているから、評価損は発生していない。

第三判断

一  評価損 一三万四六六九円

1  車両が事故によつて損傷した場合、当該損傷部分について修理がなされたにもかかわらず原状回復が困難であるときには、修復し得なかつた部分によつて自動車の走行性能や耐用期間、安全性、外観等がどのような影響を受けるかという観点から、事故前の被害車両の価値と事故後のそれとの差額をもつて損害として評価すべきであることはいうまでもないが、当該損傷部分が修理によつて原状に回復したときであつても、事故後の被害車両の現在価格が事故前のそれに比べて低減していることが認められる場合には、その差額をもつて損害と評価するのが相当であると解される。なぜなら、原状回復が実現したとしても、それは自動車としての使用上の機能が回復し、従前と同様の使用上の価値を回復したというにとどまり、現在価格、すなわち経済的価値(市場における商品価値)が事故前に比べて現に低減していることが認められるのであれば、それはまさに損害として加害者に負担させるべきものであつて、被害者側で受忍することは衡平の観点から相当でないからである。

2  本件においては、被害車が修理を受けて原状回復したことは争いがないものの、甲一五、一六によれば、中古車の現在価格を査定するに当たつては、当該車両の修復歴が減点事由として採用されており、本件の被害車も修復歴があることにより同様にその現在価格が減額されている(甲一三、一四)ことが認められる。もつとも、前記経済的価値の低減に相当する金額を算定する前提となる減点評価の基準の合理的根拠が必ずしも明確ではないこと、本件の被害車の初年度登録年月が本件事故の二〇か月前である平成四年一二月で、本件事故まで二万四二六〇キロメートルの距離を走行しており、購入して間もない中古車とは異なり、使用上の価値のみならず、相当程度経済的価値も既に費消されていると考えられること、下取りする等によつて経済的価値(=市場価格)が具体化・現実化する予定が認められず、今後さらに使用上の価値が費消されると予想されるところ、そうなれば、被害車の市場価格そのものが修復歴の存在如何にかかわらず相当程度低くなると見込まれること、エンジン等自動車の中枢部分の状態は良好であること(甲一三)からすると、原状回復したものの、修理したことによる現在価格の減額分の評価に当たつては、控え目に算定するのが相当であり、修理費(一三四万六六九四円)の一〇パーセントである一三万四六六九円をもつて損害として認めるのが相当である。

二  弁護士費用 二万円

本件における弁護士費用としては、二万円を相当と認める。

三  結論

以上によれば、原告の損害額として認められるのは合計一五万四六六九円となる。

(裁判官 渡邉和義)

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